[ Blue Sky ]

[ 高機動幻想 ガンパレード・マーチ ] それが世界の選択だから。
オマケ付。

「んー、いい天気」
 五月、僕は晴れ渡った青い空を病院の屋上で見上げていた。
「こんなところにいたのか」
 後ろから声をかけられた僕は、振り返ってそこに立つ人を微笑と共に迎える。
「やあ、舞」
「やあ。ではあるまい。医者から絶対安静を申し付けられていただろう」
 舞が見つめる僕の腕には、まだ包帯が残っている。見えないけど、身体中が包帯だらけだ。
 竜となった友達と戦ったのは、つい数日前。
 彼を助けた後、病院に担ぎ込まれた僕は、医者から絶対安静を言いつけられていたんだけど。
「消毒薬の匂い、苦手なんだ」
 肩をすくめる。
 あの匂いは、どうしてもラボを思い出させるから。
「それに、こんなにいい天気なんだよ。外にいないともったいないような気がしない?」
 そう言って僕はもう一度青い空を見上げる。
「病室からでも空など見えるだろう」
 僕は彼女を安心させようと、ぽややんとしたいつもの笑顔を見せる。
「もう大丈夫だよ」

 昔は人を欺くために付けていた『道化の仮面』だった。
 今は、本物の笑顔になった。舞のおかげで。

「それでもだ。勝手にいなくなる事は許さん。そなたは私のカダヤなのだからな」
「うん。ごめんね」
 舞は病室にいない僕を心配したんだろうな。
 彼女の表情を見ていればわかる。
 僕は舞を抱き寄せ、耳元に口を寄せた。
「ありがとう、舞」

 言葉では言い尽くせない感謝を。
 僕の大切なカダヤに。

「そろそろ休眠期になるかな?」
 僕は舞を抱きしめたまま、空を見上げた。
「そうだな...我らの活躍で熊本にいた幻獣のほとんどが消えた。休眠期明けの戦闘は、人類が大陸へと攻め込むことになろう」
 舞はもう先の事を見ていた。僕はちょっと驚いたけど、彼女らしいと納得した。
「そっか」
 僕はそれだけを答える。

 舞が戦場に立つというのなら、僕はその隣に立とう。
 常に彼女の側にいる。それが僕の選択だから。

「でも、しばらくは休めるよね」
 舞に笑顔を向ける。
「ねぇ、退院したらデートしようよ」
「なっ...!」
「夏はやっぱり海だよね。キャンプで行った時は、ちょっとまだ寒かったし」
 舞が真っ赤になっているのは知っているけど、僕は構わず続ける。
「第一、小隊のみんなと一緒だったもんね。今度は舞と二人っきりがいいな」
 言い終わって舞を見ると、彼女は困ったように僕を見ていた。
「...駄目かな?」
「そ、そなたが、どうしてもというなら...行ってやらん事もないが......」
 舞はつまりながらも、確かに言った。僕は嬉しくて、彼女を抱きしめる腕に力を込めた。
「こ、こら...このようなところで......」
「いいじゃない。誰もいないよ」
 僕は舞の髪を優しく撫でる。
「...まったく、そなたは子供のようだな」
 呆れたように言った舞が、観念したように僕の背中に腕を回した。
「でも...生きていてくれて嬉しいぞ」
「僕も、舞をこうやって抱きしめられて嬉しいよ」
 僕らは青い空の下、久しぶりに穏やかで柔らかい時間を手にした......


■オマケ■

 後日、奥様戦隊にデバガメ写真を配られて、舞は激怒していた。
 僕としても、これには断固抗議する事にした。
「司令。僕や舞をからかうのは、仕方ない。と諦めます」
 僕は、善行司令の前でにっこりと笑った。司令の口元が引き攣っているのは、この際無視する。
「でも、こういう写真をばら撒くのは、二度とやめてくださいね」
 僕は、ばら撒かれていた写真を司令に突きつけた。
 ばら撒かれていた写真は、全て回収してある。あらゆる手を使って。
「善処する、なんて政治家みたいな事は言わないで下さいね。僕は止めてくださいと言ったんですから」
「あ、ああ」
 頷く司令に、僕はもう一度にっこりと笑顔を見せて小隊長室を後にした。
「まったく...油断も隙もないんだから」
 僕は写真を見つめて呟いた。
 舞が僕に抱きついている写真。
 こんな彼女を見ていいのは、僕だけだ。
 独占したいって気持ちはいつもある。
「また子供みたいだ、って言われるかな」
 写真を見つめて呟いた。
「ま、いいや」
 写真を大切にポケットへ仕舞った。
「さあ、僕の大切なお姫様の機嫌を直しに行かないとね」
 僕は青い空の下、舞の元へと歩き出した。