[ Garden ]

[ サクラ大戦 ] 太正櫻に浪漫の嵐。
●●の秋。

「あー、いい天気だ」
 大神は中庭で空を見上げた。
 そんな彼の足下では白い小犬がじゃれついており、せっかく掃き集めた枯れ葉を気持ちよく散らしてくれていた。フントにしてみれば、大神に遊んで欲しくて仕方がないのだ。
「フントぉ、頼むから散らかさないで...」
 そう言いながらも大神は、鼻を鳴らして遊ぼうよぉと催促してくるフントをそんなに邪険にも出来なかった。大神だってこんな日は落ち葉をベッドに寝転がりたい...などと思ってしまうからだ。
「もう少しで終わるからさ」
 大神はため息を零しながらも箒を動かす。
「いよぉ、隊長! 今日はいい天気だな!」
「カンナ? ...マリアもどうしたの?」
「お疲れ様です、隊長」
 すでにフントはちゃっかりとマリアの腕の中だ。
「へへへーっ」
 その隣でカンナはなにやら嬉しそうに大きな紙袋を抱えている。
「...カンナ、どうしたの?」
「いや、何。隊長が中庭の掃除をしてるって聞いてさ。ついでに焼き芋でもって思ってね」
 どうやら袋の中には秋の味覚が詰まっているらしい。
「すみません、隊長。お手伝いしますので」
 すまなそうに言うマリアにカンナは口をとがらせて言った。
「なんだよ。マリアだって、焼きぐりも美味しいって言ってたじゃないかよ」
「カ、カンナ!」
 真っ赤になってしまったマリアを見て、大神は思わず笑っていた。
「隊長まで!」
「ごめんごめん」
 むくれるマリアに謝る大神も二人の提案に否はなかった。

「よし、フント。とってこい!」
 カンナは中庭の隅にあったボールを持ってくると、フントと遊び始める。
「来てくれて助かったよ。漸く落ち着いて片付けられる」
 カンナに遊んでもらって嬉々としているフントを見て大神はため息を吐きぼやいた。
「フントも隊長にかまってもらいたかったんですよ、きっと」
「...非常に光栄です」
 大神とマリアは話しながらも箒を動かし、ものの十分もすると中庭は綺麗になっていた。

「じゃ、焼き芋しようか」
 その言葉に待ってましたとばかりにカンナは紙袋をひっくり返した。
「やっぱ、秋は芋だよなぁ」
 満面に笑みを浮かべて用意するカンナの隣でフントは目の前に転がっているサツマイモをクンクンと嗅いでいた。
 マリアも栗を取り出して楽しそうに準備をしている。
「えっとマッチはと...」
 煙草を吸わない大神は持ち歩いてはいない。
「ついでに新聞紙ももらってこよう」
 呟きながら大神は事務局へ向かった。
「あれ? 大神さん? 手伝いにきてくれたんですか?」
「マッチと古新聞をもらいに来たんだけど」
 目を輝かせる由里に大神は苦笑した。
「マッチと古新聞...?」
 首を傾げる由里の横からかすみが大神に渡してくれる。
「これでいいですか?」
「うん。ありがとう」
「う?ん、マッチと古新聞......」
 まだ首を傾げている由里とかすみに手を振って大神は中庭に戻った。

「あー!」
 大神が出ていってしばらくして、由里が声を上げた。
「何? どうしたの、由里」
「焼きイモ!」
「はい?」
 今度はかすみが首を傾げる番だった。
「だから、大神さんの持っていったマッチと新聞! さっきカンナさんとマリアさんが台所で芋を洗ってるの見たのよ。......ねぇ、かすみさぁん」
 期待の眼差しで見上げてくる由里にかすみは早くも諦めの表情を浮かべていた。
「仕事はどうするの?」
「息抜きも大切ですって!」
 力一杯に言う由里にかすみは降参の旗を振った。
「...いいわ。一息いれましょ」
「やったぁ!」
「私はこれをまとめ終わったら行くから」
「じゃ、私は椿を誘ってきますね」
 由里は早速、事務局を飛び出していった。かすみはしかたないわねぇと言いたげな顔で書類を手にしたが、再び人の入ってくる気配に入り口へ視線を向ける。
「かえでさん」
「...あら、かすみさん一人? 由里さんは?」
「えっと...その」
 かすみは黙っている訳にもいかず、諸々の説明をした。
「それは楽しそうね。私も一息入れたい所だったのよ。一緒に行きましょう」
 かえではにっこりと笑い、かすみを連れて中庭へ向かった。
「あ、かすみさん! かえでさんも」
 なぜ話さなかったのと、大神へ詰め寄っていた由里が二人に気付いて手を振っていた。
「いつの間に中庭掃除が焼き芋パーティになったの?」
「は、申し訳ありません」
 かえでの言葉に大神は直立不動の姿勢をとった。箒片手で今一つ決まらなかったが。
「いいのよ」
 朝から書類とにらめっこをしていたかえでは、青空を見上げて身体を伸ばした。
「丁度いい息抜きになったわ。...加山君が帰ってきたら拗ねるわね」
 朝早くに出かけた加山の事を思ってかえではクスリと笑った。
「お疲れ様です」
「あれぇ??」
 アイリスがレニを連れて現れた。フントと遊ぶつもりだったようだ。同時に音楽室から出てきた織姫も中庭の様子に気付いて顔を出した。
「焼きぐりなんて久しぶりでーす」
 ヨーロッパでも秋の味覚の焼きぐりがあると聞いて、彼女はとても喜んだ。
「何や、賑やかやな」
「何かあったんですか?」
 いつのまにやら人が集まってきていた。
「何ですの? 騒々しい」
「お、おめぇも来たのか?」
 ずっと火の前にいたカンナがすみれの声に振り返った。
「またカンナさん? 今度は一体何をしでかしたんですの?」
「いい鼻してるよ。丁度食べ頃だぜ、ほら」
 カンナは新聞紙に包んだ黒いカタマリをすみれに押し付けた。
「...何ですの? これ」
「ヤキイモ。さ、みんなも食おうぜ」
 カンナの顔はこれ以上ないほどに緩んでいた。
「ん、うまい」
「やっぱりおいしいですね」
 それぞれが思い思いに焼き芋を頬ばる。
「焼きぐりも美味しいでーす」
 大粒の栗もホクホクしていて甘い。
 フントもレニやアイリスから少しずつ分けてもらってご満悦の様子だ。
「もうすっかり秋だね」
 大神はそんな皆の様子をマリアと並んで眺めていた。
「帝都だと時々季節の移り変わりに気付かないからなぁ。サロンの花がキキョウになってたのを見てやっと実感が湧いたんだよ」
「確か...秋の七草のひとつ、ですよね」
 マリアは以前写真で見た蒼い花を思い出す。
「あら、お気付きでしたの? 少尉」
「すみれくんだったのか。昨日の夜、見回りをしている時にね」
 さすがは私の少尉と言ってさくらと口喧嘩を始めてしまったすみれの隣で、アイリスはレニに聞いていた。
「秋の七草って...?」
「ハギ、オバナ、クズ、ナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウの七つ。秋の代表的な草花だよ」
「ふ?ん」
 アイリスはレニの説明を一生懸命聞いていた。
 こうして思いがけず大きくなった焼き芋パーティは楽しい笑い声と共に幕を閉じたのだった。