[ Happy Time ]

[ サクラ大戦 ] 太正櫻に浪漫の嵐。
やっと来た

 やっと来た。
 蒼い空と白い雲。
 ずっと約束を果たしたいと願い、夢にまで見た光景。
「大神さん、早く泳ぎましょう。水がとても綺麗ですよ」
 そして、彼女の口からこんな台詞が零れるなんて、誰が想像しただろう。
 大神は笑って、彼女の側に歩み寄った。
「もう水は怖くない?」
「大神さんっ」
 からかうように言った大神を彼女は軽く睨みつけたが、口元が緩んでいるので迫力は半減している。
「ははっ......やっと約束が果たせるよ。一緒に泳ごう、マリア」
 大神は彼女の手を取って、海へと走り出した。

「しっかし......ここが全部貸しきってあるなんて信じられないよ」
 しばらく泳いで浜へ戻って来た大神は、呆れたように呟いた。
「さすがとしか言いようがありませんね。ここを提供してくれたのは、あのブルーメール家なのですから」
 マリアも、見渡す限りどこまでも白砂の続くここが、全てあの金髪の女性のものだと聞かされた時は驚いたものだ。
「何よりこの休暇を手配したのが、かえでさんだという事だ......もう完全に頭が上がらない......」
 そして、実質的に手配を進めたのは、大神の親友を自認するあの月組の隊長だった。
 他にも欧州に詳しいアイリスや織姫もグリシーヌを手伝っていたらしい。
「ふふ......でも、こんなに幸せな事ってないですよね」
 この旅行を企画したのは、大神やマリアではない。
 新米の総司令と、その副官として、二人は激務に追われていた。
 それを見ていた花組の面々が、これは休みを取らせねばと一致団結した結果。
 あれよあれよという間に、彼ら二人はこのブルーメール家のプライベートビーチに送り込まれたのだ。
「ああ、最高に幸せだよ」
 大神もマリアの台詞に微笑みを返す。
「最初は、どうしてと思っていたんだ。俺は帝都を守る為に、軍人になったのに......どうして、俺は劇場でこんな事をしてるのかって」
 初めて辞令を受け取ったあの日、大神は歓喜に震えていた。
 あの米田中将の下、帝国華撃団の一員として戦えると。
 しかし、案内されたのは帝国劇場。与えられた任務は、モギリ。
「友人達は軍艦に乗り、訓練を続けている。そんな中、俺は一人何をしているのかと」
 マリアは大神の話をじっと聞いている。
「でも、よかった......俺には、最高の仲間が居てくれる。こんなに幸せな事は他にない」
 そこまで言って、大神は隣に座るマリアを見つめた。
「それに、最愛のマリアも居てくれるしね」
「お、大神さんっ!」
 突然の言葉に、マリアは顔を真っ赤にしている。
 こんな変わらない彼女が大神は大好きだった。
「巴里に行かれて、随分と性格が悪くなられましたね」
 微笑んでいる大神を、マリアは軽く睨みつける。
「ここには誰も居ないからね。それに、今までおおっぴらに言う事も出来なかったし」
 大神の言う通りだった。
 帝劇やシャノワールでは、人の目を気にしなくてはいけなかった。
 少なくとも、表立って誰かを特別扱いする事は、隊長である彼には出来なかった。
「ずーっと言いたかったんだ。誰も気にする事なくね」
 こうはっきりと言われてしまうと、肩の力が抜けていくのを感じる。
「わかりました。好きにしてください」
 マリアの諦めたような言葉に、大神は小さく笑った。
「うん。好きにする」

 大切な仲間から贈られた、最愛の人との時間。
 これ以上ない幸せな時間。
 それが例えつかの間の平和でも――――――。