[ Merry Christmas ]

[ 高機動幻想 ガンパレード・マーチ ] それが世界の選択だから。
MERRY X'MAS !!

 十二月に入り、街はにわかにクリスマスムード一色になった。
 クリスマスソングの流れる商店街を歩きながら、厚志も大切な時間を演出するための計画に思いをめぐらす。
「ねぇ、舞はクリスマスのケーキ、何がいい? やっぱりオーソドックスにブッシュ・ド・ノエルかなぁ?」
 でもデコレーションケーキも捨てがたいよね、と隣を歩く恋人の意見を求めた。
「厚志、私はクリスチャンではないぞ?」
「..................え?」
 このご時世に、まさかこんな返事が返ってくるとは......。
 さすがの厚志も予想していなかったらしい。歩みが思わず止まってしまった。
「我ら芝村は神を信じぬ。故に、無宗教だ。......しかし、そなたがキリスト教信者とは知らなかった」
「あ、あのね。舞......」
 厚志は、このあたり天然でそしてやっぱり"芝村"な舞に、最近のクリスマス事情について説明した。
「......と、いう訳でね。別にクリスチャンでなくても、クリスマスは祝うものなんだよ」
「それは本当か...? 私が父に聞いた話と随分と違うが......厚志、また私をからかっているのではなかろうな」
 猜疑心に満ち溢れた視線に、厚志は『ちょっとだけ』日頃の行いを反省したようだ。
「本当だよ。だって、ほら、見てごらんよ。街中がクリスマスに向けて準備してるじゃない」
 言われて舞は、改めて街を見回した。見れば、いたるところに金銀の飾りで飾られたツリーが並び、ショーウインドウのディスプレイも赤や緑といったクリスマスカラーを中心に彩られている。
「ふむ......そなたの言う通りのようだな。......という事は、私は父に騙されていた事になるな」
 静かな怒りが舞の背中から滲み出ている。厚志は、思わず一歩後退りしてしまった。
「ま、まぁ......そう。その分、今年取り戻そうよ。ね?」
 しかし、フォローは忘れない。いつもの笑顔で、舞に提案する。
「う......そ、そうだな。過去は取り戻せぬ。よし、決めた。今年はクリスマスをするぞ!」
 どうやら怒りは決意に変わったようだ。
「うん。それでね、最初の質問に戻るんだけど。舞はどんなケーキが食べたい?」
「..................クリームたっぷりのケーキならば、なんでもよい」
 甘いものが好きな彼女は、しばらく考えた後でそう答えた。
「そなたの作るケーキは美味しいからな。期待している」
「僕も頑張らないとね」
 厚志は笑顔で請け負った。
 そして、クリスマス当日。
 ドアを叩く音に気付いて、厚志はご飯の準備をしていた手を止めて出迎えた。
「はい」
 扉を開ければ、大切な人の姿がそこにある。
「いらっしゃい。舞」
「う、うむ......。めりーくりすます......」
 舞は顔を赤くしてそう言った。
 どうやらあれからクリスマスについて情報を集めたらしい。
「メリークリスマス、舞。外は寒いでしょ。中に入って」
 舞を室内に迎え入れると、厚志は彼女の好きな紅茶を入れて持っていく。
「すまぬ......」
 香り立つ紅茶を、舞は笑顔で受け取った。
「にゃ???」
 その彼女の足に、猫のマイが擦り寄る。
「マイか......ふむ、そなたにもめりーくりすますだ」
「ふにゃっ?」
 マイは撫でられて、気持ちよさそうに一声鳴いた。
「じゃあ、舞。ちょっと待っててね。もう少しでご飯の用意ができるから」
「うむ。マイと共に待つとしよう」
 紅茶を飲み温まった舞は、膝の上に猫を抱き上げる。
 その様子に笑顔を見せ、厚志はキッチンへと戻った。

「はい。出来たよ。いっぱい食べてね」
「ほう......」
 舞は目の前に並んだご馳走に感嘆の声を零した。
「美味しい......」
 ポテトサラダを摘みながら、舞は呟く。
「やはり、そなたの作るものは美味い」
「そう? 舞に誉められると嬉しいな」
 厚志は猫のマイに、鳥のささみを解してあげながら、にこっと笑った。

「しかし、このような日も悪くはないな」
 リクエスト通りのクリームたっぷりのイチゴケーキを食べながら、舞が言った。
「誰も戦場で泣くことなく、平和に過ごせる日々......。私は必ず手に入れるぞ、厚志」
「うん。そうだね。僕はその舞の隣に必ずいるよ」
 クリスマスに自分の事じゃなくて、世界の事を考える舞に、厚志は内心で苦笑していた。
 舞はとても優しい。
 最初はとても無愛想で口が悪くて、怖い印象を与えるけど。
「......厚志、今、私の悪口を考えたであろう」 
「舞は優しいなって思ってたんだよ」
 図星を指された動揺を顔に表すことなく、厚志はぽややんと笑う。
「ななななな、なにを......!」
「だって、本当の事だからね。クリスマスは何を自分に贈ってもらえるかって考えるものだし」
 厚志はそこまで言って、思い出した。
「あ、ちょっと待っててね」
 そう言って彼はちょっと大きめの紙包みを持ってきた。
「はい。クリスマスプレゼント」
「......? あれはサンタという者がくれるのではないのか?」
 芝村舞という人間は、厚志を絶句させるという芸当をいとも簡単に成し遂げてしまう。
「......そうだね。でも、僕が舞にあげたいんだ。受け取ってよ」
 それでも何とか立ち直った厚志は、舞に包みを手渡す。
「......開けてもよいか?」
 なんだかんだ言っても嬉しいらしい。舞が微笑しているのに、厚志は気付いていた。
「いいよ。舞の為に買ってきたんだから」
「うむ......」
 ガサガサと包みを開けると、中から現れたのは真っ白な猫のぬいぐるみ。
「..................」
 無言のままぎゅーっとぬいぐるみを抱きしめる舞に、厚志は自分の選択の正しさを確信した。
「喜んでくれたみたいで、嬉しいよ。舞」
 ふわふわの毛並みを一心不乱に撫でている彼女を、幸せそうに目を細めて見つめる。
「厚志.........その、そなたに感謝を......」
 やっとこちらの世界に戻って来た舞は、ぬいぐるみを抱きしめたまま厚志に礼を言った。
「これなら、舞がどんなに忙しくしても側にいてくれるでしょ?」
「そうだな......ぬいぐるみとは考えつかなかった」
 舞は滅多に見せない柔らかい笑顔を見せている。
「ただ、その......私は何も用意していない。許すがよい」
「いいんだよ。舞は気にしなくても。さっきも言ったでしょ? 僕があげたくて、舞に贈ったんだって」
「そうか......では、来年のクリスマスを楽しみに待つがよい。来年は私も必ず用意しよう」
 厚志はそれを聞いて、嬉しくなった。
 来年も。
 そう約束してくれた。
「うん、ありがとう。来年が待ちどおしいなぁ」
 今からウキウキしている厚志に、舞は言ってよかったと思った。
「そうか。楽しみだな。来年もよろしく頼む」
「こちらこそ」
 二人は顔を見合わせて笑った。
 こうして、聖夜の夜は何事も無く更けていく。

 もし......緊急召集がかかっていたら?
 幻獣は瞬殺されていた事でしょう。恋人との大切なひと時を邪魔された絢爛舞踏によって......