やっと掴まえた。そう思った。
やっと掴まえた。そう思った。
「舞、一緒にお昼食べない?」
僕は午前中の授業が終わると同時に、後ろに座る舞に声をかけた。
「うむ、まかせるがよい」
彼女はちょっと顔を背けて、そう言った。
「じゃ、屋上に行こうか」
僕は立ち上がって照れている舞に手を差し出す。
「...あいにく、今日は弁当がない」
僕には毎日手作りのお弁当を渡してくれるのに、舞が自分のお弁当を滅多に持っていない事を僕は知っている。
だから、僕は机にかけていたバスケットを取り上げ、にっこり笑った。
「はい、これ。舞の分だよ」
僕は屋上に上がると、身体を思いっきり伸ばした。
田辺さんの作ったてるてる坊主はよく効くなぁ。...気象兵器?とか思っちゃうくらい。
「厚志、何をしている。早く昼食にするぞ」
「うん。あ、紅茶もあるよ」
僕は抱えていた魔法瓶から紅茶を注いだ。
ちゃんとリーフから入れたやつ。
準竜師の給料の大半は、装備品なんかにつぎ込んでいる。それでも紅茶だけは買っていて、うちの台所には舞の好きな銘柄が並んでいたりする。
「ミルクも砂糖もいれてないからね」
「すまぬな」
早速、僕の作ったサンドイッチを取り出しながら、舞はコップを受け取る。
「おいしい?」
「うむ。そなたの作るサンドイッチは相変わらず絶品だ」
「それは良かった。でも、僕は舞の作ってくれたお弁当の方が好きなんだけど」
自分の分の紅茶にたっぷりとミルクと入れた僕は、舞の作ってくれたお弁当を嬉々とした表情で開いた。
「...そなたのそういうところが嫌いだ」
舞の不機嫌そうな声を聞きながら、卵焼きを口に運ぶ。
...きっと、今の僕の顔はいつもの1.5倍くらいぽややんになっていると思うな。
青い空の下で、舞と、大切なカダヤと二人で食べるお弁当。
この時間を誰かに邪魔されたら、僕は穏やかな気持ちでいられるかはっきり言って自信が無い。
僕はモグモグと咀嚼しながら、そんな事を考えた。
お昼ご飯を食べ終わった後、僕は舞の膝枕で空を見上げていた。お昼ご飯の後の時間はこうして過ごす事が多い。
「ふふ...そなた、猫のようだぞ?」
最初は「な、なななぬっ! いや、何を...」って慌てていた舞も、最近はちょっと、本当にちょっとだけだけど慣れてきたみたいだ。
髪をすく舞の指が気持ちいい。
ぽやぽやとしながら、舞の言葉に答える。
「舞に飼ってもらえるなら、猫になってもいいな」
「馬鹿者。...それより、少しではあるが休め。昨日も遅くまで調整をしていたのだろう?」
僕は小さく頷いて、目を閉じた......
やっと掴まえた。僕はそう思っていた。
それなのに...掴まっていたのは、僕の方。
ここは、彼女の隣は、居心地が良過ぎて...ずっと囚われていたい。
僕は、そう思った。