夏休みの小旅行。その1。
「あち...」
夏の盛りに肩からスポーツバックを掛けた諒は、とあるローカル線の駅へ降り立った。
「お?い、真田。こっからどのくらいだ?」
「あと一時間くらいかな」
後ろから掛かった声に簡単に答える。
「まだそんなにあんのー?」
「上杉ぃ。言い出しっぺはお前だろーがよ。今さら、何言ってんだよ」
マークはブラウンの台詞に呆れた。
今回の旅行の発端は、諒宛に届いた一通の手紙だった。
「夏休み、どうすっかな?」
夏休み前、教室で友人達が話をしているのを聞きながら諒は昨日届いていた手紙を思い出していた。
「私、海へ行きたい!」
病気も完治し、元気になった麻希がそう提案する。
「いいっすねー。一度くらい行っときますか」
「アヤセもー」
「ふむ、悪くないな」
「あんた達だけじゃ不安だね...あたしも行くよ」
「Ryoはどうする?」
エリーは隣に座る諒に訊ねる。
「ん? ああ。俺、今年はちょっと行くとこあるんだ」
水を差すような事は言いたくなかったが、しかたない。
「どこに行くの?」
「父方の田舎。昨日手紙が来て、夏休みに来いって言われたんだ。それ以外の日程なら大丈夫だけど」
「どんなところなの?」
エリーは諒の田舎というのに興味を持った。
「瀬戸内の小さな島。網元をやってる」
諒はエリーに網元の意味を説明している間に、友人達が何やら囁きを交わしている事に気付かなかった。
「なぁ、真田。瀬戸内ってメシうめぇ?」
「ああ...って、まさか」
諒は顔を上げ、辺りを見回す。
「察しがいいな、真田」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ」
諒は早速、日取りを考えようとする友人達に慌てた。
「一日で往復なんて無理だぞ」
「泊りで全然OKっすよ」
「網元って事は家も結構でかいんじゃないのかい?」
ゆきのの問いに彼は頭を抱えた。確かにこの面子が泊まれるくらいにあの家は広い。
「...わかった。電話して聞いてみる」
こうして、夏休みの小旅行は決定したのだ。