夏休みの小旅行。その4。
夏休みも後一週間となった今日、諒のマンションへいつもの面々が集まっていた。
「だから、違うと言っているだろうが! 何度言ったらわかるんだ!」
飲み物を用意している諒の耳に、南条の声が聞こえてくる。
夏休みの宿題を片付ける手伝いをしているのだが......さすがの彼もマークとブラウンを相手に苦戦しているようだ。
しかし、なんだかんだ言ってもちゃんと面倒を見てくれているのが彼らしいと諒は思う。
「Ryo? 何か手伝いましょうか?」
諒が苦笑いをしていると、台所の入り口からエリーが顔を出した。
彼女も宿題を終わらせて、手伝いをしている一人だ。
「そうだな、そこの果物でも剥いてくれるか?」
指差した先には、山盛りになった果物が置かれている。
「どうしたの? これ」
「じいちゃん達がさ、送ってきたんだ」
あの事件以降、島には平穏が戻っていた。
悪名高い開発会社には税務署の査察が入ったそうで、開発計画は頓挫しそうだという話を孝嗣さんから聞いた。
「ま、俺一人じゃ食べきれないしな」
諒は桃を手に取り、甘い匂いを楽しむ。
「もう夏も終わりね」
秋の果物が幾つかあるのを、エリーは見て取った。
「ああ、そうだな。......あれを片付け終えたらな」
諒の言葉の後に、南条の怒号が重なる。
「貴様ら、真面目にやっているのか!」
諒とエリーは顔を見合わせ笑っていた。
「そうだ。今日の晩飯、パスタでいいか?」
大人数の時は、パスタを茹でるのが一番手っ取り早い。
諒は居間へ顔を出し、尋ねた。
「そうだな。......食事の時間があれば、な」
「......はは」
南条の言葉に、諒は思わず乾いた笑いを零す。
「じゃ...頑張って」
それ以外にかける言葉が思い浮かばず、台所へと逆戻りするのだった。
夕方になり、バイトだったというゆきのもやってきた。
「いらっしゃい、Yukino」
「なかなか似合ってるじゃないか、そのエプロン」
ゆきのは玄関へ迎えにきたエリーの姿を見て、にやりと笑った。
「でしょう? これ、Ryoのなんですって」
彼女はネコのアップリケのついたピンクのエプロンをつまんでみせる。
「......本気かい?」
「Jokeですわ。私が家から持ってきたの」
エリーがにっこり笑うのを見て、ゆきのは降参と肩をすくめた。
その日の夜遅くまで、諒の部屋から怒号と悲鳴と、楽しそうな笑い声が絶えることはなかった。
「じゃあ、また!」
「おう!」
仲間たちが別れて、家路につく。
諒は送っていくと言って、エリーと一緒に歩き出す。
「今日はごちそう様。Ryoの作ったご飯、美味しかった」
「......パスタは誰が作ってもあんなものじゃないのか?」
エリーの言葉に、諒は首を傾げる。
彼にしてみれば、あの材料で不味いものを作れる人物の方がすごいと思う。
「ふふっ。でも、もう夏休みも終わり。ちょっと寂しいわね」
エリーは笑った後、月を見上げて呟いた。
「? 何を言っているんだ? エリー」
諒は再び首を傾げた。
「夏休みは、あと一週間もある。まだまだこれからだ」
エリーは諒を見つめ返し、微笑んだ。その微笑みに、諒は思わず目を奪われた。
「そうでしたわね。明日はプールでしたかしら?」
「ああ。宿題終了記念とか言ってたな」
何とか宿題を終えたマークとブラウンが言い出したのだ。明日は絶対にプールだと。
諒は苦笑しながらも、エリーの水着姿を楽しみにしていた。
しかし、そんな事はおくびにも出さない辺りが彼らしい。
「それに、じいちゃんちで余り泳げなかったからな。久しぶりに思いっきり泳ぎたい」
彼は大きく身体を伸ばしながら、エリーに笑いかける。
「じいちゃん達が、また来年もおいでって言ってたよ。それまでは学校のせまいプールで我慢するさ」
「まあ......」
諒の言葉にエリーは笑う。
「でも、来年の楽しみが出来ましたわ。今度こそ、ゆっくりと避暑を楽しみたいですわ」
「ああ。まったくだ」
二人は歩きながら、来年の話に華を咲かせる。
今年の夏は終わる。
しかし、季節は巡り。
また、夏はやってくるのだ―――