声が聞きたい。(3発売前捏造文)
夜、大神はふと目を覚ました。
多忙を極める任務を終え、自分のアパートに帰ってきたところまでは覚えている。が、その後の記憶がはっきりしない。どうやらあまりの疲れにカーテンを開
けたまま眠ってしまっていたらしい。蒼白い月の光が室内を明るく照らし出しており、目が覚めたのはその光のせいのようだ。
あらためて横になってみるが、妙に目が冴えて眠れない。大神は窓際に寄って月を見上げた。 「やれやれ...せっかく良い夢を見ていたのに......」
そう呟いて苦笑いを零す。夢の中とはいえ、最愛の人に会っていたところを邪魔されたとなれば文句のひとつも言いたくなる。
「マリア......」
その名前を口にするだけで、心の奥が何かあたたかいもので充たされていく。
目をとじれば、彼女と二人で歩いた帝都の景色すら鮮明に思い出せるようだ。
『隊長』
他の誰かが側にいるときには、絶対に名前では呼んでくれない。
『大神さん』
そう呼ぶのは二人きりの時だけ。恐らくは無意識に、甘えるように。
会いたい。
夢の中でもいい。朝になれば醒めてしまうとしても。
ベッド脇の時計は午後十時を示している。日本は朝の六時。彼女はもう起きているはずだ。大神は机の上に置かれたキネマトロンに手を伸ばした。
呼び出してすぐに回線は繋がった。予想どおり彼女は起きていた...が、目覚めたばかりであるらしいその身にはシーツが纏われているだけだった...。
『はい!』
「おはよう、マリア。何かあった訳じゃないんだ。だた...少し声が聞きたくなって」
慌てているマリアに、そう言って大神は照れたように笑った。 『
そうですか。ならいいのですが...少しお疲れですか?』
「ああ、少しね。今日も疲れて寝てんだけど、月に起こされちゃって」
マリアの優しい声を聞くだけで癒されていく。
本当はもう少し一緒にいたかった。彼女の側で、平和な帝都で。
それでも、こうして彼女の笑顔を見ていると、離れていても大丈夫だと思えてくる。
そのまましばらく他愛のない話に花を咲かせていたら、ゆっくりと睡魔が襲ってきた。
『大神さん? やはりお疲れなのでしょう? もうお休みになった方が......』
「そうだね。明日もたくさん仕事が待ってることだし」
マリアの勧めに肩を竦めて答え、大人しく従う事にする。
「マリア...じゃ、また」
『はい。大神さんもお休みなさい...』
彼女の微笑みを見ながら通信を終えて、ベッドにもう一度潜り込む。闇に包まれた部屋の中で、大神は最後まで聞けなかった問いを小さく呟いた。
「マリアは俺の夢をみることがあるかい......?」
そして、夜明けがやってきて......また忙しすぎる日々が始まる。
愛すべき人の元に帰るその日まで。