[ うたたね ]

[ サクラ大戦 ] 太正櫻に浪漫の嵐。
寝顔。

「えっと...」
 その日の午後、大神は書類に目を通しながらテラスからサロンへ続く廊下を歩いていた。ここは日当たりが特にいい。軽い疲労と相俟って、大神の瞼は重くなった。
「ふぁ...」
 思わずあくびが零れ落ちてくる。
「あれ?」
 休もうと思って入ったサロンには先客があった。
「マリア?」
 呼び掛けても反応がない。
「...?」
 近付いてみると、彼女はソファの肘置きに寄り掛かって軽い寝息を立てていた。何だか得した気分になって、大神の口元に自然と微笑が浮かぶ。しかし、このままではマリアが風邪をひいてしまいそうだ。
 大神は自分の部屋から毛布を持ち出し、起こさないようそっとマリアにかけた。
(綺麗だよなぁ......)
 マリアが眠っているのをいいことに、大神はその寝顔を長い間、ただじっと見つめていた。
 どのくらい時間がたっただろう。
「ん...?」
 マリアが目を覚まし、薄く目を開いた。
「起きたかい?」
「え......」
 マリアは目の前で微笑む大神に気付いて、一瞬で首筋まで真っ赤になった。そんなマリアを見て大神は色が白いから映えるなぁ、などと不届きな事を考える。
「...あ、ありがとうございます」
 肩から掛けられていた毛布に気付いて、マリアは俯きながらも大神に礼を言った。
「気にしなくていいよ。俺もマリアの寝顔が見れてラッキーだったから」
 大神はニコニコと笑っている。その笑顔にますますマリアは赤くなって俯いてしまう。
「マリア、何かいい夢でも見てた?」
「......ええ、とても」
 マリアは先程まで見ていた夢を思い出して微笑んだ。
「そう、それは良かった。今、お茶でも煎れよう。ちょっと待ってて」
 大神は微笑みを返して、立ち上がりサロンから出ていった。
 それを見送ったマリアは、思い出した夢の内容に再び頬を染めていた。
「マリア、開けてくれるかい?」
 大神の声で現実に引き戻され、マリアは急いで扉へ向かった。両手にお盆を持った大神が入ってくる。
「はい、どうぞ」
 差し出されたのは甘い香りのするお茶だった。
「いい香り...とても美味しいです」
「この前インドへ行っていた友達と偶然会ってね、お土産にもらったんだよ。珍しいものらしくてこれで終わり」
「そんなに大切なものをよろしいのですか?」
「他の人には内緒だよ?」
 大神はマリアに悪戯っぽく笑いかける。
「それは大変ですね」
「うん。俺の懐と命の危険があるからね」

 午後、サロンから明るい笑い声が聞こえてきていた......