他にいない。
夜中に目が覚めると、必ず隣に舞がいるかを確かめるようになっている事に気付いた。
最近、一人でいるのが怖い。
舞は僕が居なくても生きていけるけど、僕は駄目だ。
「...厚志? 眠れないのか?」
そんな事を考えていた僕の気配に気付いたのか、舞が目を覚ました。
「ごめん、起こしちゃったね」
僕はちょっと困ったように笑った。
「いや...気にするな」
舞は微笑を浮かべると、僕の頬に手を添えた。
「どうした? 泣きそうな顔をしているぞ」
「ん...ちょっと夢見が悪くて」
僕は舞の背中に腕を回して引き寄せ、肩に顔を埋めた。
二人でいる時も、こんなに不安が押し寄せてくる。
人間って本当に欲張りなんだな。
幸せを一つ手に入れると、それが最低ラインになってしまう。
だから、僕はもう舞を手放せない。
「厚志?」
「しばらくこのままで......お願い」
そんな僕の背中を舞は優しく撫でてくれる。
「わかった。そなたの気がすむまで、こうしていよう」
舞の温もりが気持ちいい。
こうしている時だけは、不安が消える。
「ありがとう、舞」
「そなたは時々幼子のようだな」
彼女はそう言ってまた笑った。
髪を撫でる舞の手の感触に目を閉じていたら、だんだん眠くなってきた。
「眠るといい。明日も戦闘がないとはいえぬからな」
舞はそんな僕の様子に気付いて、そう言った。
「うん。おやすみ、舞...」
「良い夢を、厚志」
僕は舞の温もりに包まれて、再び眠りにつく。
舞だけだよ。こんな僕を見せるのは。
こんな事を話したら、きっと「当たり前だ。他の者に見せたりすることは、私が許さん」とか言って、本気で怒るだろうけど。
舞だけだから、僕を満たす事が出来るのは。
他の人間では無理。どんなに姿形が似ていても。
舞は、他にいない。
僕は眠りにつく寸前、そんな事を思った。