[ 約束 ]

[ 高機動幻想 ガンパレード・マーチ ] それが世界の選択だから。
熊本城戦後。

 熊本城戦で熊本市内に集っていた幻獣のほぼ全てを殲滅させたため、ここ数日は出撃も少ない。5121小隊もここ連日の疲れを癒すため、出撃を見合わせている。
 厚志は快晴の空の下、プレハブ校舎の屋上でブータをじゃらしていた。数日前に鬼神のような戦い振りをしたとは思えないぽややんした表情で、ねこじゃらしがピコピコ動くのにあわせて揺れるブータの尻尾を見つめている。
 しばらくそうしていた彼は、先ほどから自分たちに向けられている視線の主に声をかけた。
「こっちにおいでよ、舞」
「う、うるさい」
 彼女は身体中を緊張させて、彼らを見つめている。本当は彼女もブータと遊びたいのだと知っている厚志は、微笑んでもう一度くり返した。
「こっちにおいでよ、舞」
 ぽややんとしているように見えて、厚志はマイペースに押しが強い。
「はい」
 彼が差し出すねこじゃらしに、舞は意を決して手を伸ばした。

 ブータと遊ぶ彼女の表情はいつもの『芝村』の顔ではなく、一人の少女としての表情だった。厚志はいつもにましてぽややんな顔で恋人を見つめていた。
 だがしかし。
 隣にいる大切な恋人が、自分ではなく猫に夢中になっている。という状況は、彼にとってもあまり面白いものではない。
 厚志は何かを閃いたようにニッコリと笑う。
 この笑みを5121小隊の仲間たちは『悪魔の微笑』と呼んでいる......

「舞」
 厚志は飽きる事なくねこじゃらしを振っている彼女を両手の中に閉じ込めた。華奢に見えても激戦を生き抜いている彼は、女の子一人くらい軽々と抱え上げる。
「ななななにを......」
 突然の事に舞は顔を真っ赤に染めて、厚志を見上げた。
「熊本城戦の時の約束、覚えてるよね?」
 横抱きした彼女に顔を近付けて、確認するように厚志は言葉を紡ぐ。
「なんだ、その事か。当たり前ではないか。何でも申すがよい」
 舞の言葉に厚志の笑みは更に深いものとなる。
「本当に何でもいいの?」
「くどいぞ、厚志。芝村は約を違えたりはせぬ」
 言いながら舞は何とか厚志の腕から逃れようとするが、彼はしっかりと彼女を抱きしめていてびくともしない。
「僕がこの世界で欲しいと願うのはただ一つ。君自身だよ、舞」
 厚志は他の人には見せない柔らかい笑顔で彼女に答えた。
 そして、テレポートセルを起動させる。
 残されたブータは、呆れたようにため息を吐き、空を見上げた。

 その後の事は、厚志と舞だけが知っている......