熊本城戦前。
君がどこかの誰かの未来のために戦うというのなら、僕はその君を命を賭けて守ってみせる。
...なんて事を言ったら、きっと怒り出すんだろうけど。
僕は目の前でブータと睨めっこをしている舞を見つめた。
「ん? どうした?」
僕の視線に気づいたのか、舞が顔を上げる。
「何でもないよ。ただ、楽しそうだなと思って」
舞は猫が好きだから。
「べ、別に楽しいなどという事は......」
真っ赤になりながら答える舞は可愛い。
僕は口元に微笑を浮かべた。このささやかな幸せが嬉しくて......
「ひふぁいひょ......」
それなのに、舞はからかわれたと思ったらしい。
僕の頬を思いっきりつねっている。
「その笑顔の下でろくでもない事を考えたであろう」
「そんなことないよ」
「うるさい」
僕の大切なカダヤは完全に拗ねてしまったようだ。
ブータが何とかしろと言いたそうに、ニャーと鳴いた。
何とかってね...
僕は舞を見つめる。
あの時の風景が目の前に広がる。
僕は――彼女を見殺しにした。
あの...熊本城攻防戦。
舞の満足そうな笑顔が......
「厚志...? どうした?」
掛けられた声に僕は意識を目の前の舞に戻す。
黙りこんでいた僕を心配そうに彼女が覗き込んでいる。
舞は優しいから。
「ううん、なんでもないよ」
僕は決めたんだ。
人であって人でない存在になろうと、僕は君を守ってみせる。
あんな笑顔は見たくないし。
もう置いていかれるのは嫌だから。
「舞」
「なんだ?」
「僕を置いていかないでね」
僕は舞を抱きしめる。
この温もりを失うつもりは、ない。
あんな笑顔より、明日も舞が怒っている方がいい。
舞の笑顔を明日も見る事が出来るのなら、僕は他に何もいらない。
「そなたは私のカダヤだ」
黙りこんだままの僕に、舞はそれだけを告げる。
「うん」
その言葉が嬉しくて、僕は舞を抱きしめる腕に力を込めた。
数日後には、あの作戦が発動されるだろう。
あんな『史実』はいらない。
僕は運命を覆すために、ここにいる。
明日の笑顔の為に。
それが僕の『選択』――――