[ 星に願いを ]

[ サクラ大戦 ] 太正櫻に浪漫の嵐。
流星群。

 ここ数日、帝都では暑い日が続いている。午前中の仕事を終えた大神は冷風機(紅蘭特製)のきいたサロンへと避難していた。
「全館にこれを装備してくれないかなぁ」
 大神はソファにぐてっと体を投げ出してつぶやいた。そこが一番冷気があたる場所なのだ。
「隊長、だらしないですよ」
 入ってきたマリアに叱られて身体を起こすが、大神はまたずるずるとソファに沈みこんでしまう。
「やっと書類整理が終わったんだよ」
 大神は事務室での書類との格闘を思い出した。
「だからといって隊長がそのような格好だと皆に示しがつきません」
 マリアは、大神がネクタイを緩めて襟のボタンを二つも外しているのが気に入らないらしい。
「はい...」
 大神はのろのろと起き上がって、シャツのボタンを止める。
「しかし、ここ数日暑いなぁ」
「そうですね。今日の最高気温は三十度を越すらしいですよ」
 真っ青な空を二人、窓辺に寄って見上げた。
「それは...。やっぱり全館に冷風機を入れて欲しい......」
 泣きそうな表情の大神をマリアはクスッと笑った。

「あ?、やっと涼しくなってきた」
 夜になり、大神は一階から順に見回っていく。
「...屋上へ行ってみるか」
 全ての戸締まりを確認して仕事は終わったが、大神はもう少し涼みたくて屋根裏から外へ出た。
「今夜は星がよく見えるなぁ」
 屋根の上に座り込んで星空を見上げる。
「...隊長?」
「あれ......?」
 大神が振り返ると、マリアに連れられたアイリスとレニが上がってきたところだった。
「お兄ちゃんも星を見に来たの?」
「星? いや、俺は涼みに出てきただけだよ」
 大神は隣にちょこんと座ったアイリスに答える。
「今日はペルセウス流星群を見ることが出来るんだ」
「へぇ...。それは知らなかったよ」
 レニの言葉に大神も改めて空を見上げ、天体ショーの始まる時を待つことにした。

「お!」
 しばらくして、星が流れ始めた。
「始まったね」
 幾つもの星が美しい軌跡を描いて流れる様を四人で眺める。アイリスは一生懸命に願い事をしていた。
「俺も何か願ってみようかな」
 大神は天を仰いで心の中で願い事を何度も繰り返した。
「...よし」
「もういいんですか?」
 まるでからかう様にマリアが聞いてくる。
「うん。ひとつだけだからね」
 大神はその問いに微笑んで答えた。
「これだけは自分の努力だけではどうにもならない部分があるんだよ」
「? そうなんですか?」
「そう」
 ずっと願っている事がひとつだけ。
「ん? 終わったみたいだね」
 星降りは徐々にまばらになって消えていった。
「また来年も一緒に見たいですね」
 マリアは名残惜しそうにまだ空を見ている。
「アイリスも!」
「...そうだね、来年は皆も一緒に見よう」
「悪くないね」
 大神の提案にレニも微笑んで賛成してくれた。
「さ、もう寝なさい。明日の朝起きられなくなるわよ」
「はーい。レニ、いこ。お兄ちゃん、マリア、おやすみなさい」
「うん。...おやすみなさい」
「おやすみ」
 先に戻るアイリスとレニに手を振った大神は、マグライトを持って立ち上がった。
「さて、俺達も戻ろうか」
「そういえば、隊長は何をお願いしたんですか?」
「......秘密です」
 大神は微笑んではぐらかすばかりで絶対に教えようとはしなかった。
(...マリアには特に言えないよなぁ)

 大神の願い。それはたったひとつ。いつもひとつだけ想い続けている事。
『アナタノソバニズットイラレマスヨウニ......』